シアワセ

シアワセ







いつからだろう?

いつ歯車がずれたのだろう?

僕はいつから狂ってしまったのだろう?

いや…狂ってしまった方がまだマシだったろう――



どうしてこんなことをするようになったのか。

ただ、左手首に付けた傷から血が溢れてくるのを見るとなんとなく安心した。

自分が生きていてもいい気がした。

さっきまで僕はこの世に存在していてはいけない気がしていたのに。

リストカットという行為で気持ちが向上するというのは不思議な感触だった。

そう、僕は生きていてはいけない。

あの出来事で僕はそれを感じてしまった。

他人から見れば些細などうでもいいことなのかもしれない。

この時代、外の国から見れば平和で、国の中から見れば平和とは言えないこの国では。

『あの人…』

ある日、ある時、ある駅で。

『自殺しようとしてる』

すれ違った髪の長い女性。

その顔を見てそう感じてしまったのだ。



その女性を僕は追いかけようとはしなかった。

赤の他人だ。関わる必要もない。

その場ではそう感じた。

僕はその夜突然ものすごい罪の意識に襲われた。

ひょっとしたら自殺ではないのかもしれない。

それ以前の問題として死んでもいないのかもしれない。

そう考える僕も僕の中に居た。

けれどもしあの女性が死んでいたら?

自殺していたとしたら?

僕が止めていたらあの女性は…!

そんな意識が僕を襲っていた。

『僕はなんて無力なんだ…』

生きていてはいけない存在がここにある。

僕はカッターナイフで左手首の内側に薄く傷を付けた。

血は出てこない。

もっと深く切った。

外側も切った。

何度も何度も同じところを切るうちに血が溢れてきた。

それが僕の自傷行為の最初だった。

誰だって自傷行為の最初なんてどうでもいい理由からなのかもしれない。



僕には付き合っている人がいた。

おとなしくて優しい少女だった。

いつも僕の悩みや相談事に耳を貸してくれた。

だから大丈夫だろう。なんの根拠もなしにそう思ってこの行為のことを話した。

それは僕にとってほんの世間話か何かのつもりだった。

傷を見て彼女は泣いた。

『どうしてこんなこと…』

どうして泣くのか分からなかった。

『死にたいの…?』

違う。そう言いたかった。

でも、彼女を見たらそう言えなくなった。

でもこのまま黙っていたら僕は死にたがりになってしまう。

だからとりあえずこう言った。

『ごめん…ね?』

このことを通じて僕はこの行為が異常だということを知った。



何の為にやっているのかと問われると生きる為としか答えようがない。

死ぬ為にやっているわけでもないし、死にたいわけではない。

生きているということを感じるため。

生きていていいのだということを感じるため。

だから切る。

けれどそれは他人から見て異常だと映るものらしかった。

僕と付き合っていた少女もそうだった。

彼女はいつしか僕から離れていった。

僕は独りだった。

独りであの日すれ違った女性への罪悪感と闘って、そして切っていた。

独りでいろんなことを考えた。

女性のことを妬んだこともあった。

僕がこんなにも苦しんでいるのにあの女性は先にこの『生』という苦しみから逃れたんだ。

自殺することで逃げたんだ。僕を置いて。

僕は罪悪感から生き、そして切った。

少女と別れた今は罪悪感で生きているといっても過言ではなかった。



そうして2年が過ぎた。

僕はまたある日、ある時、ある駅で女性とすれ違った。

あの女性だった。

生きていた。死んでいなかった。

普通に歩いていた。

自殺しようとしている…。そんな影は今はどこにも感じられなかった。

僕は安心した。

もう罪悪感に悩まされることはない。

そう思った。

それと同じにある事実に気づいた。

罪悪感がないということ。それはとても幸せなことだった。

けれど僕はこの罪悪感の為に生きていたのだ。

僕は生きる理由を完全に失ったのだった。



いつからだろう?

いつ歯車がずれたのだろう?

僕はいつから狂ってしまっていたのだろう?

いや…狂ってしまった方がまだマシだった。

『かわいそうに…飛び下り自殺ですって』

『こんなに体に傷を作って…』

『家族は何をやっていたのかしらね…』

横たわる、僕の体。

今は動かない僕の体。

左手首には無数の傷。

右腕にも無数の傷。

傷だらけの僕の体。

さっきまで動いてた。

けれどもう指一本も動かせない。

でもこうするしかなかった。

僕はかわいそうなんかじゃない。



ボクハ、シアワセデス。





――2005年2月19日 「シアワセ」完――





あとがき。



グロいの来たー!!

いやありえない。

暗い。暗すぎる。

暗いっていうか重いよ。

これは裏に回すべきだった?

でもずっと書きたかったテーマだったんです。

たぶん、経験した人にしか分からない世界。

それを周りの人にもすこし理解してもらいたいなぁって。

え?理解したくない?

まぁそう言わず☆

…なんでこんなにテンション高いんだろう。



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