夢語Another Story2〜"Last week,〜

夢語Another Story2〜"Last week,〜





あたしは優美花の墓の前で手を合わせる。

そしてゆっくりと語りかける。

「・・・もう、一年経つんだね」

一年前の今日、優美は死んだ。

死因は通り魔による刺殺。

でも、あたしは、知っていた。

不治の病。

あたしは優美花の力には何もなれなかった。

今も思うと苦しくなる・・・。



「私ね、もうすぐ死んじゃうみたい」

突然言われた。

あまりの明るい口調に理解ができなかった。

「死んじゃうって・・・」

「不治の病ってやつ。

 原因もわからなくって、もって一年だろうって・・・」

あたしは泣きそうだった。

けれど優美花は笑っていた。

「・・・なんで」

「私にもわからないよ。

 なんでだろうね」

優美は教室の机に軽く腰掛ける。

窓には夕日の色が映っている。

「それでなんで笑っていられるの・・・?」

「だってさ、どうせ死ぬんだったら笑顔を覚えていてもらいた」

「怖くないの?」

言ってしまってから後悔した。

優美花は笑っていた。

瞳だけが泣いていた。

「・・・怖くないわけないじゃない・・・!」

あたしは優美花の隣に腰掛け、優美花の手を握った。

「ごめんね・・・」

優美の頬に涙がつたう。

それでも優美花は口元に微笑を残していた。

(ああ、なんて)

去年の九月。

優美花が死ぬ、3ヶ月前のこと。

(夕焼けがキレイ・・・)



それからも優美花は笑顔を絶やさなかった。

見ているこっちが辛いぐらいの笑顔だった。

もともと明るい性格の彼女だったが、さらに明るく振舞っていた。

そんな彼女はクラスメイトたちの人気者になった。

恋人もできた。

けれどあたしはそんな優美花がいつも心配だった。

『あともう少しだから』。

あたしと話すときの口癖。



そして、優美花の死の一週間前だった。

「エリコは私が死んでも覚えていてくれる?」

「・・・突然どうしたの?」

屋上で昼食を取っている時のことだ。

優美花はこの頃痩せてしまった。

それでも周りには笑顔を振りまき、元気そうに見せていた。

優美花は俯き、その表情は言葉を探しているようだった。

「覚えてるよ。

 絶対忘れない」

あたしがためらいがちに、けれどはっきり口に出す。

優美花は顔を上げずに次の言葉を紡いだ。

「なんで人間は死んでもその存在が残ってしまうんだろうね」

「・・・どういう意味?」

ポニーテールがわずかに揺れる。

優美花の長いポニーテールはほどけば床まで届きそうだ。

「私ね、出来ることならば、私のこと忘れてほしい。

 私が死んで悲しむ人がいるのは嫌なの。

 でも、私はその人を慰めることができない…」

優美花のことを、忘れる?

「できないよ・・・。

 優美花のこと忘れるなんて嫌だよ!」

あたしはすでに泣いていた。

泣きそうな顔をしている優美花を見て泣いていた。

「・・・本当は、よくわからない」

床にしみができる。

温かくて、塩辛い水。

「わからない、けれど。

 私のこと覚えていてほしいけれど。

 それでも私は残された人のことを考えてしまう」

一日、二十四時間。

優美花とすごせる時間は後何時間だろうか。

「エリコ、お願いがあるの」

あたしがひとしきり泣いた後、優美花が言った。

優美花も目を赤くしている。

「なあに」

「私が死んだ後、きっとヒロくんは自分を責める。

 私が死んだのは、ヒロくんのせいじゃないから。

 ヒロくんに言ってほしい。」

「・・・こんな時に恋人の心配?」

「ごめんね」

「違う、自分の心配をしなさいってことだよ」

「でも、ごめんね」

空は青く、広い。

今日の夕焼けもきっとキレイだ。



一週間後、優美花は死んだ。

死因は病によるものではなく、通り魔殺人事件の被害者となって。

あの事件がなければあと一週間は生きられたかもしれない。

優美花の恋人は自分自身を責めていた。

優美花が待っていた公園は恋人との待ち合わせ場所だったからだ。

けれど、もうどうしようもない。

二度と会えない。



「あたしね、優美花の言葉、伝えたよ。

 それでもあの人、自分を責めてた。

 でも、きっともう大丈夫。

 今はもうあの人もいない。

 子供を事故からかばったんだって。

 最期の顔、笑ってたって」

優美花はこの冷たい石の下に眠っている。

「あたし、優美花のこと忘れなくていいと思ってる。

 悲しさももちろんあるけれど・・・。

 優美花の笑顔を思い出すと心が暖かくなるから」

空を見上げる。

今日も空は青い。

優美花は空を見るのが好きだった。



きっと今日も夕焼けがキレイだろう。



あとがき。

まさかこの物語の番外編を一年ぶりに書くことになろうとは。
自分でも予想してませんでしたね。
2年ぐらい越しの物語になってしまいました。
まあそれだけ思い入れがあったということでしょうか。
実際に自分が考えている問いが盛り込んであります。



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