俺の夢

俺の夢




 俺は“俺”と共に公園を走っていた。俺は半ば信じられない思いでいっぱいだった。でもそれよりも今は優を助けられるかもしれない、そんな興奮が体を満たしている。
(間に合うかもしれない!優!待っていろ!俺が今から行く!)
 あの時、窓が閉まっていたはずの“俺”の部屋には風が吹いていた。その風はとある日に優からもらったメモを“俺”のもとへと運んだ。よく見慣れたその文字を見た“俺”はコートも着ずに家を飛び出した。時計は五時。あの公園までは十五分もあればつくはずだ。公園が見えると“俺”はさらにスピードをあげた。ベンチに座っていた影がその足音に驚いたようにこちらを振り向きそして――笑顔を作った。少女は泣いていた。
「優!」
(間に合った…!)
「優…ごめんな…」
 少女に駆け寄った“俺”は言葉と共に少女を抱き締めた。
「違うの…私が悪いの…。私が弱いからいけないの…」
 少女は静かな声でそう答えた。その声にはまるで生気が感じられなかった。優の身体は冷え切っていた。
(俺は…運命を変えることができたのか…?)
俺の体は何故か熱かった。走ってきた“俺”の体が熱いせいなのか、“俺”が抱き締めている優からわずかに伝わるぬくもりなのか。それとも…
(“ユーレイ”である俺が未練を果たしたからなのか…?)
 しかし俺のからだが消えて行く気配は感じられなかった。その代わり俺はあるものに気がついた。それは茂みから先の方だけを見せ、鈍い光を放っていた。それは包丁だった。茂みの向こうに回り込むと黒いジャンパーとマフラーをした男が座り込んでいた。
「男…ガキとはいえ男は男…。男で俺の狂気を汚すわけにはいかない…。しかし残念だ…もう少しであの女の体にこの俺の美しい狂気を突き立てることができたのに…」
(こいつが優を殺そうとした男…!)
殺してやりたい…しかしこのからだでは首に手を掛けることもできない。諦めるしかなかった。男から視線をはずし空を見上げると暗くなりかけた空に気の早い星が光を放ち初めていた。

 その晩俺は一度は“俺”の家で過ごそうかと考えたが優の顔が見たくなり、再び優の家(の屋根)で夜を過ごすことにした。優を救うことができた嬉しさ、喜びで跳び回りたい気分だった。夜も遅くなった頃、俺は優の部屋へと入った。優は日記を書いていた。俺はいつかのように覗き見ようと試みたが丁度そのとき優が立上がり、日記の開かれたままのページが見えた。そこには――
(…優?)
 ゴホッ…
 見開きにされたページに紅いものが落ちた。それは広がり白いページに染み込んでいった。後ろを振り返り見ると、少女が口に手を当て、その手の間から紅い液体がおちてきていた。
『…優…』
俺の脳裏に服を紅く染めた優の姿が浮かんで消えた。そして目の前には崩れ落ちるように倒れた少女の姿。俺の視界は黒くなっていき,そして――

――『優は幸せでした』――  

 何も見えなくなった。



 目を開けると真っ白な天井があった。次に体がうまく動かないことに気がついた。横になっているのに疲労感に似たものが体をしばっていた。ふと、左手に違和感を感じ逆の手で触れると包帯が巻かれていることが分かった。どうやら俺は現実へと戻って来たらしい。優があの男に殺されたその後に。ここは病院の一部屋だった。
(生きている…!?何故?何故死なない?優がいないこの世界で生きる意味などないというのに!)
ドアの開く音に首を巡らすと母親がそこにいた。
「…よかった…」
俺は泣いていた。何故かは分からない。涙を流す母親に優の姿を重ねたのだろうか。とにかく悲しかった。
(俺は…結局運命から逃れられなかった。俺なんかが変わってそうすれば優が救えるなんて…思い上がっていたんだ。俺が変わっても優は…)
あの過去の体験は俺が生死の境で見た夢だったのかもしれない。とにかく優はいない。それは真実だった。

 俺はどうやら一週間ほど意識不明の状態だったらしい。その間過去を見てきたなんてことは口が裂けても言えなかった。ただでさえ二日ほどの間はほぼ毎時間監視の目が光っていた。おそらく俺が早まったことをしないように。そんなことを言えばそれこそ気が狂ったと思われるだろう。
 三日間が過ぎると次第に監視は薄くなった。俺ももう死のうとは考えなかったが、生きる理由があった訳ではなかった。ただぼんやりと動いているだけの生活だった。
 ある日一人の女性が訪ねて来た。ノートを手に持っている。俺は緊張した。そのノートはもし夢でみたものが本当に過去だったとしたら、それは優の日記だった。
「…はじめまして。優美花の母です」
言われるとその女性は優にどこか似ていた。声が出なかった。
「あの子の遺品のこのノートからあなた宛てに…手紙のようなものがあったので届けに来ました」
「優が…俺に?」
俺の声がかすれていたのだろう。優と似た女性は笑顔もよく似ていた。
「…ありがとうございます」
似ているがどこか違うその女性からノートを受け取る。確かに夢と同じノートだった。ふと、端の方に付着している紅いものに気がついた。
「これ…?」
女性はうつむいてしばらく迷っていたかのようだった。
「あの子は…不治の病だったんです。原因も分からない、全てが手遅れの。今年いっぱいだと言われていたんです」

   夕日が差し込む病室で俺はノートを広げた。見慣れた綺麗な文字がならぶ。さっき優の母親とした会話を思い返した。
「俺のこと…恨まないんですか?」
「…何故ですか?」
「俺のせいで優は…」
目頭がかっと熱くなる。下を向きこらえていると女性は言った。
「…恨むべきは殺人犯でしょう。それも連続殺人だそうですから被害者の人は私たちだけではありません。一日も早く捕まって欲しいです」
「でも…」
「誰を恨んでも死人は蘇らないんです…それよりも自分の無力さが憎いです」
「…」
(優のように…強い人だな)
 パラパラとページをめくると少しおり癖でも付いたのか、ひっかかるところがあった。
“――九月十二日 みんなに私の笑顔を覚えていてもらいたい。私の笑顔で誰かを幸せにしたい。命尽きるその日まで、いつも笑顔でいよう…”
再びページをめくり続け、最後の日記が現れた。
“――十二月十六日 やっぱり全部話そう。手紙を書いて、全部知ってもらおう。私の気持ち、私の命を…”
 俺はノートを閉じ、はさまっていた紙切れを出した。
“私はもうすぐ消える命の持ち主です――”
 手紙は死に向かう恐怖、楽しかったことなどが書いてあった。そして――俺はありえない言葉を見た。それは夢ではなかった。
“優は幸せでした。ありがとう”
(…優。俺はいつも笑顔でいる。お前の代わりに…な?いいだろ?だから…)
 窓の外は日が落ち夕焼けの空だった。
(…今はまだ何も見たくないんだ…)
 俺の視界は涙で霞みがかっていった。



「…危ない!!」

俺は道路へ飛び出し転んでいた子供を抱えた。

(…!間に合わないか?!)

すぐそばに大型トラックがせまっていた。

(!くそっ)

俺は子供を半ば突き飛ばすように道路の対岸に届けた。

「!!」

同時に体中に激痛が走り、俺はガードレールに激突した。

(…身体が動かない…俺は今度こそ死ぬのか…)

誰かが俺の顔を覗き込んでいた。女の子だ。

何故だか泣きそうな顔をしている。

(そんな顔するなよ…)

俺は力を振りしぼり顔に笑顔を浮かべようとした。

少女が笑ってくれたかは分からない。

俺はぼやけていく視界の隅に優を見た気がした。

(俺は誰かを笑顔にすることができたのだろうか。優、お前が俺にしてくれたように…)

答えは返ってこなかった。

その代わり、優の笑顔を見た気がした。


―夢語 完―




あとがきもどき。
心のうたに引き続き暗い暗い…自分でいうのもなんですが。
なんか…自分はギャグ物とか書けない気がします。
たまには幸せ完結ものとか、書いてみようかな…
ちなみにこれは実体験ではありません。
その代わり、ユーレイとか現実的じゃないものを出してみました。
割と上手くいったから成功…なのかな?
これからは更新をもっと早くしたいと思いますので宜しくお願いします。
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