あの日

あの日



(今日も暑いなぁ…)
コンクリートに反射する日差しがやけにまぶ;しく感じる。真夏の一時。一日の中でも一番
暑い時間帯だ。
(こんな時間帯部活とかなかったら外になんて出るもんかっ。いや絶対出ないぞ。私だっ
たら…家で涼むとか)
少女、千夏が『私だったら』といいつつも考えていることは大して千夏だけが考えそうな
ことではなかった。しかし千夏はそんなことには気付くこともなく道路を歩きながら1人
考えをめぐらせていた。
 千夏にとって部活は楽しむためのものだった。こんなに毎日やりたいとは思わないが今
日は仕方がない。千夏の所属している吹奏楽部は明日に地域の夏祭りに出演を依頼されて
いた。そのための練習だ。
(つーかなんであんなに必死に練習して銀?!審査員がきっと寝てたんだ!)
よくよく考えればありえないことを千夏は普通に考えている。暑さのせいかはたまた昨日
の怒りのせいか、頭がよく働いていないようだ。
 吹奏楽部で最大の行事『吹奏楽コンクール』は昨日終わってしまった。これからは基礎
練習が中心となる時期に入る。他の中学であれば定期演奏会がある学校もあるが、あいに
く千夏の学校では演奏会の予定はない。しかも3年生が引退しこれからは千夏たち2年生
が部活の核となるのだ。明日は3年生の最後の本番となる。あたらしい部長や副部長も明
日のうちに決まるだろう。明後日から実質上のあたらしい部活動が始まる___。
(あたらしい部活動か…あのメンバーでまた来年の4月まであのまま___。)
 千夏には悩みがあった。
(美月ちゃんもあの口の悪ささえなければなぁ…)
美月は千夏の後輩、千鶴の友達だ。Saxパートの1年生でいつも千鶴と共にいた。千夏
と千鶴、そして美月は家の方向が同じで部活の帰りは一緒に帰っていた。ついこの間まで
___。千夏は美月とあまり会話がない。というよりは美月が千夏のことを避けているよ
うな気がしてならないのだ。多分嫌われているのだろう。美月は千鶴を連れて早く帰るよ
うになった。5月ごろは学校へ行くときも帰るときも3人だったのが今では5分から10
分の差がある。千夏は必然的に1人で登下校をすることとなった。
(私の何が悪いのかなんで具体的に言ってくれないのかな…。
 どうして人間には好き嫌いがあるのだろうか?他の動物は、犬や猫は好き嫌いをすれば
生きてはいけない。人間だけがわがままを許されている。気に入らないことがあればそれ
を口に出し、仲間割れをして、ついには人を殺す___。)
 あたりがふとうす暗くなった。気温が一気に下がったような気がした。
(太陽が雲に隠れたのかな?このまま涼しくなればなぁ…)
 ズキッ
 左手首に痛みが走った。
「きゃあっ?!」 左手首を誰かにつかまれて引っ張られる。勝手に身体はまえに進んでいった。
「…声出したら刺すからね。」
千夏の目の前には10pほど千夏より背の高い男の人がいた。手には鋭く光るものがあっ
た。
「5分ほどで済むから___。」
車の中へと連れこまれそうになる。車にはすでにエンジンがかかっていてすぐにでも走り
だせそうだ。
(なに?やだ!怖い!!助けて___!!)

「この件は誘拐未遂事件として処理します。」
(頭痛い…。)
千夏は中学の校長室に居た。
「明日調書をとったらもうこのことは忘れて幸せになってね。」
千夏の目の前に居るのは婦警さんだと紹介された。若干、思ったよりも警官らしくない格
好をしている。
(このひと本当に婦警さんなのかな…本職は違うのかも知れないな___。)
「じゃあ先生と話をしてくるからちょっと待っていてね。」
千夏の視界から婦警が消え、千夏の周りに静寂がおとずれた。
 ふと千夏の瞳から涙があふれる。
(何で…?!何で私がこんな目にあわなくてはならないの?!!私が何をしたと言うの
…?)
千夏は持病を持っていた。そのことで自分を恨んだこともあった。でも今思えばそんなこ
とはどうでもいい___!
(何で?何でよ!何で私?!お医者さんが言うようにずっといい子にしてたよ?そうすれ
ば治るって言われてたもの!でも治らないあげくにこの仕打ち?!何で___!)
涙は止まらない。8月の暑い暑い日だった。

 千夏は笑わなくなった。その瞳にいつも暗い光を宿していた。外へも出なくなった。部
活にもしばらく行かなかった。
(また外へ出てあんな目に会うぐらいなら___。)

「千夏先輩!元気だしてください!」
千夏の耳に明るい声が響いた。今日千夏は久方ぶりの部活に来ていた。親は「どうせ家に
居てもすることがないでしょう」と言ったが外に出たがらない千夏をなんとかして外にだ
したかったのだろう。
 千夏は部長にこそならなかったが、合奏をまとめる係である学生指揮者の1人に選ばれ
ていた。
「卯川さん___(卯川は千夏の名字だ)___はたくさんCDを持っていたりたくさん
の音楽を知っているからきっと上手くまとめてくれる___」そんなとこだろう。同じく
学生指揮者に選ばれた美由も千夏に頼っているようだ。
「ちなはリズム感もいいし楽譜読むのも速いから絶対大丈夫だよ!」
美由は千夏の表情を伺いながら話しかけてくる。
(そんなこと言われても困る___だって今こうやって皆が周りで吹いてるのを聞いても
何が悪いのかよくわからない…)
 そこまで考えて千夏ははっと気が付いた。
(何で?つい最近までイヤってぐらい音程の乱れとか気になっていたのに…音が急によく
なるわけがない。むしろ3年が引退して悪くなる一方のはずなのに!)
(私の心に余裕がないから?あの事件のせいなの?)
目の前が真っ暗に染まる。
「千夏?!ちなっ?!大丈夫?顔青いよ___ねぇちな___ちなってば…」
美由の声はひどく遠くから聞こえた___。

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