対人恐怖症


対人恐怖症

「ねぇ…○○ってさ…。」
ドクン…
「××だよねーやっぱり。」
「あははははなにそれ最悪じゃんっ!」
ドクンっ…ドクン…
「あの人△△だと思わない?」
くすくすくす…あはははは…
(いやだ…何かしていないと耐えられない!こんなにも人の視線が気になるなんて…!な
にか…なにかしていないと…)
 千夏は震えてくる手をおさえて読みかけの小説に手を伸す。震えは手の感覚を鈍らせて
いた。本が床に落ちる音が教室に響く。千夏には教室中の目が、耳が、その音に向いた気
がした。
(イヤだ…!イヤだ___。)

 月日は実に自然に流れていった。世間の流れなどお構いなしに時は刻々と過ぎていく。
 千夏は普通に学校には行けるものの自ら外に出ようという気は全く起きず、その日も自
室に籠もり本を読んでいた。そのペースはいまや3日に2冊を読むというスピードにもな
っていた。
 読んでいた本からふと目をあげると時計は5時を示めしていた。そろそろ夕食の支度を
はじめる時刻だが、千夏はまた視線をもどし、続きを読む___はずであった。
「ちな、買い物言ってきてくれる?」
母の声がリビングから聞こえた。
「何で私…」
「いいでしょ?どうせ暇なんだから。」
無駄に母親を困らせたくは無かった。それでなくても母は千夏によく気を遣っていると
日々感じていた。読みかけの本に自分で作ったクローバーのしおりをはさみ重い腰を上げ
た。

(たまねぎ…と、砂糖と醤油?何作るんだろ…)
メモには他にコンソメという文字もあった。千夏が抱えた買い物かごにはすでに塩と牛肉
が入っていた。
(砂糖とコンソメと醤油と塩を同時に遣う料理…?まさか。)
今日の夕食に不安を覚えつつかごに品物をそろえていく。夕方のスーパーマーケットには
仕事帰りのサラリーマンのような男の人や、よく井戸端会議をやっていそうなおばさんと
その子供たちが走りまわっていた。
(さてこれで全部だ!)
メモを確めると母から預かった財布を出しながら適当なレジに並ぶ。千夏の前にはまだ若
いが、子持ちであろう感じがする女の人がいた。
 ふとその女性が千夏のほうを振り向く。千夏と目が合う。千夏をじろじろと見た後また
そっぽを向いた。
(何…?私何か変かな…)
千夏は下を向いた。すると、さっきまで全く気にならなかった他人の視;線が気になりだす。
声もうるさいぐらいに耳に入ってきた。
(見られているような気がする…あの男みたいに私を同じ目に会わせようと…そんなはず
は無い!…でも忘れたの?世の中何があるなんて分からないよ?たった昨日までの日常は
次の日に壊されてしまうこともあるってあの日に学んだんだ…。)
(はやくここから去りたい…!)
下を向いている千夏の耳にはうるさいくらいに聞こえる他人の声と、自分の心臓の音が高
鳴っているのが聞こえた。

 次の日、学校に行き教室に入るとクラスメイトと目があった…が、すぐにそらされた。
(え…?)
また昨日のスーパーでの出来事が脳裏に浮かんでは消えた。クラスの人の視線が気になり
だした。千夏は思わず下を向き、自分の机へと向かった。
(人の目を見るのが怖い…!まえが向けない…)
くすくすくす…あはははは…
読みかけの小説を落とし、拾うと本の内容に集中しようと耳を手でふさぐ。目に活字は入
ってくるのに内容は全く頭に入らない___。

 よく言われるように2学期は行事が多い。千夏にはどうすることもできず、体育大会が
近づいてきた。千夏は体育が苦手だ。評定はいつもアヒル___すなわち「2」がいつも
申し訳なさそうについていた。しかし千夏は授業をサボることが出来るほど度胸が据わっ
ていない。分かりやすくいえば小心者だ。要領も悪いので手を抜くとすぐばれる。いつも
全力投球でなくてはいけなかった。
 そんな千夏にとってただでさえ体育大会は『嫌いな行事チャート』の2位に入る___
1位はマラソン大会___行事であった。しかも体育大会前日にはもれなくリハーサルと
いうものもついてきた。いわば全校生徒参加のフォークダンスと入場行進の練習だ。
「それでは身長順で男女各1列に並べー!」
妙に気合の入った体育教師の声がスピーカーを通って聞こえてきた。千夏も他の人と同じ
く___いつもどおり下を向いたまま___並ぶ列に続いた。音楽が流れだす。左手をつ
かまれたとき千夏は本人にしかわからない異変を感じた。
(あ、頭がくらくらする…あの日の場面が頭の中に点滅してる…)
背中に悪寒が走った。涙もにじんでくるが無関係の人の前で泣くわけにはいかない。イヤ
でも事情を話さなくてはいけなくなってしまう。涙が流れだすのをこらえながら早く終わ
れと願い踊った。そんなときに限って3回もフォークダンスは続いた。
 終わったあと、千夏は千鶴に会った。千鶴は千夏の予想通りの質問をした。
「ちな先輩、どうしたんですか?」
涙が急にあふれだした。
「左手を触られると思いだすの…あの日の事を。」
「…。」
千鶴は黙って千夏の頭をぽんぽんとたたき歩いていった。

"対人恐怖症
他人に自分がどう見られているかにこだわりすぎる病気です
自分が他人からどう見られているか、どう思われているかを気にしない人はいません。け
れども、他人の本当の気持ちはわからないものです。こだわり始めるときりがありません。
自分の表情が、視線が、動作が人の目にどう映っているか、それを意識しすぎることから
対人恐怖は始まります。赤面、手のふるえ、表情のこわばりなどを心配したり、他人の視
線や他人の存在そのものを恐れることが対人恐怖症の症状です___"
(対人恐怖症…)
図書室でみつけた心理学の本には心当りがありすぎて悲しくなった。千夏はベッドに寝転
んだまま顔をあげる。
 外は夜の闇に包まれている。その闇の中で何かがうごめいたのが見えた気がした。

NEXT




本・漫画・DVD・アニメ・家電・ゲーム | さまざまな報酬パターン | 共有エディタOverleaf
業界NO1のライブチャット | ライブチャット「BBchatTV」  無料お試し期間中で今だけお得に!
35000人以上の女性とライブチャット[BBchatTV] | 最新ニュース | Web検索 | ドメイン | 無料HPスペース