「例えば△△高校のこととかですか？あそこの校風合わない気がして。それにここの方が 施設もいいんです。空港のそばだから窓が開けられなくて、冷暖房完備だし…不純です が。」
「あははははっ私も似たようなもんだったからなぁ。」
「…そう、それで無事にここに入学できて、こういう風に部活をしていた今日＿＿＿。」
「おい、卯川。もう一回やってみろよ。」
「は…はい。」
高校の一室で千夏は困った顔をして楽器を構えている。顔には大分疲れの色が見えてい た。
「しゅう、その言い方なんとかならないの？」
桜も同じく楽器をもっている。
「でもこうでもいわないと分かりませんよ」
「…！」
千夏の目に涙がにじみそうになる。それを見た管沢しゅうは顔をしかめた。
「おい、いつ休んでいいって言ったんだよ。」
「すいません…」
「左手が下がってる！何回言ったらわかるんだ！」
千夏はまた楽器を構え直す。部屋にさっきまで流れていたパッセージがまた流れる。
「そこ違う！」
フレーズが途切れる。再び頭からやり直す。千夏の疲れは限界に達していた。同じところ でよたった。
「だから左手はこうだって言ってるだろう！」
ぐいっ
言葉と同時に千夏の左手を吊り上げるように掴む。
「！…いやぁっ！」
千夏はしゅうの手を振り払った。楽器が揺れる。
「千夏ちゃん？！」
桜が慌てて千夏の楽器を支える。しゅうは振り払われた自分の手と青ざめた顔で座り込ん だ千夏を交互に見た。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
千夏はひたすらに謝罪の言葉をつぶやいている。
「落ち着いて！」
桜は千夏のもとへ駆け寄る。しかし千夏はびくりと身体を震わせるとそのままの姿勢であ とずさる。
「…来ないでください…！」
その様子は尋常ではない。何かにおびえているように頭を抱えている。
「何か…事情があるのかな？」
「桜さん、オレ、どうしたら…」
さっきまでの気迫は何処へ行ったのか、しゅうは落ち着きの無い声をあげた。
「とりあえず外出てて。」
「はい…」
ドアの音。続いて足音が部屋から遠ざかる。
「すいません…管沢さんは何も悪くないんです…私が、私が悪いんです…私があんな目に あったから悪いんです…」
「とりあえず落ち着いて。事情はそれから。」
１０分ほどが過ぎた。千夏はなんとか落ち着きを取り戻した。桜が用意してくれた冷し タオルを受け取る。
「ありがとうございます。」
千夏の顔には笑みさえ浮かんでいた。悲哀の籠もった笑顔ではあったがその顔はさっきま でとりみだしていた人のものとは思えないだろう。
「私は…さっきみたいに左手をつかまれたりすると思いだすことがあるんです。過去に巻 き込まれた事件のことです。…記憶障害という精神障害も残りました。」
「…！」
「さて…どこから話せばいいですか？」
千夏の声が部屋に響いた。
「心のうた」あとがき。〜前編〜
とりあえずこのお話はこれで一段落です。
一応後編も構想がありますのでそんなにかからずにお目見えできると思われます。
後編と前編には大きく違う点があります。
前編が私の実体験にできるだけ忠実に書いたのに比べ、
後編はフィクション性が高くなっています。
話の流れから「この事件の前にこの事件のほうがそのあとが効果が上がるかも知れない」などの 理由から時間の流れが実は現実行われたときと前後していたりします。
また、この話のなかでいちばんこだわったのは主人公のパートを話の中でばらさないように していることです。
○○パートって書いてしまうと「どんな楽器を吹いてるんだろうか」っていう想像が できなくなってしまうのがイヤだったんです。
私の小説ではそういった効果など狙って書いてますのでなにかそれが不自然だったりしたら 是非言ってもらいたいです。
さて、後編では千夏の高校生活のなかでのやはり部活動に焦点をあてた話になっています。
管沢しゅうと千夏の険悪な関係やほんのちょこっとラブも入ったりしていますので 前編よりはおもしろい･･･と思います。
あんまり期待はしないでください･･･
どうぞこれからもお願いいたします。
後編へ続く？/ HOME