12

『やっぱり忘れるのは怖い』
その一文からメモは始まっていた。
『忘れることは止められない。
もしも、あなた方が覚えてくれていても。
そのつらさを消すことは出来ないから。
それに、忘れたくないと…思ってしまった。
あなた方を、いとおしいと、思ってしまったから』
その文のすぐ後に、何かのシミがあった。
きっと、それは涙だろう。
『きっと忘れた時…私はもう自分を保ってられない。
自信が、ない…。
そんなところを見せたくもないから』
「私は去ります…か…」
家に響いた青年の声は、今にも消え入りそうだった。
「忘れたって、よかったのに」
青年はもう一人の青年を見た。
その表情は、そうだねって言って欲しいと語っていた。
「自分を保ってられなくても僕たちがなんとか出来たかもしれない」
声が段々と震え始める。
「レティ…まだ、シュベルツの歌聞いてないよ」
「…そうですね」
「僕たちの秘密も言ってないよ」
「…」
「僕たちは…忘れてないよ…」
「ミュージ…」
端正な顔の青年はその震える手に手を重ねた。
「彼女の…レティの歌を、歌わせてください」
涙さえ見せなかったが、その震えを少しでも和らげられるように。
私には、歌しかないから。その想いが声にこもっている。
「うん…歌って?」
机の上に揃えられた楽譜に青年は手を伸ばす。
彼女はまだこのガクフを持っていてくれるだろうか。
もしも、失くしてしまっても、私たちはこの歌を歌えるから。
忘れないから。
「『喪失恐怖』…か」
『忘れたくない』…彼女の言葉が、胸に刺さる。
この歌にも乗せられた、その言葉が。
青年は音に乗せ言葉を紡ぎ、その歌を耳に、心に焼き付けていった。

20100720 執筆終了
20101107 公開開始


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