森に咲く花

森に咲く花





後編



――そもそも死というものはなんであろうか?

この鳥は何を言ってるんだ。

一瞬そう思った。

しかし口には出さなかった。

口には出せなかった。

先ほどの悲しそうな顔がさらに深くなった。

人間でいうところの今にも泣かんばかりの顔、という感じだった。

「貴方は…何だと思うのですか?」

かろうじてそれだけを言った。

――わらわは死なない。

  死ぬことはない。

  しかし他の動物たちが死んでいくところは見てきた。

  そんな時、わらわはやりきれない気持ちになる。

  いつも、わらわだけが死なずに残る。

(孤独…か)

俺は奇妙な気持ちに包まれていた。

この鳥の悲しみが分かる訳ではない。

けれど、なんとなく悲しみがわずかに伝わってきた。

――どうしてわらわは死なないのだろうか。

  わらわはここから動くこともできぬ。

  この森にはわらわの言うことを解すものもおらぬ。

  時折、動物たちが訪れるのみじゃ…。

  わらわはずっと考えていた。

  真に死ぬことがないというのに、死を知っていると言えるのだろうか。

  わらわには死というものが分からぬ…。

そういったきり、鳥の言葉は聞こえなくなった。

俺は泣いていた。

何故だか分からない。

涙が溢れてきていた。

『死にたい…』

鳥が、そう言っている気がした。

「俺は…死ぬのが怖い。

 俺はあいつが死んであいつのために、あいつのためにって生きてた。

 俺が生きる理由はそれだけだって思ってた。

 けれど…本当は違うんだ。

 俺は死ぬのが怖かった。

 あいつのため、なんて建前なんだ。

 あいつが狂うように死んでいったのを見て、怖かったんだ。

 その償いのために生きてるんだと無理やり理由をつけて…」

ごめんなさい。

俺は俺の気持ちに気づかなかった。

「俺は死ぬのが怖いんだ!!」

――やっと、認めましたね。

鳥が、羽ばたいた。



気が付くと俺は真っ暗な空間にいた。

完全な真っ暗闇ではない。

上にも、横にも、そして足の下にところどころ光るもの。

そこに広がるのは360℃の宇宙だった。

(ここは…?)

――ようこそおいでくださいました。

  夢のお味はどうでしたか?

さっきの鳥の言葉が聞こえた。

と、同時に何もない目の前の空間に少女が現れた。

「あなたは…さっきの鳥?」

――私は夢鳥、AVIEと申します。

  死にゆくものに夢を見せるものです。

「じゃあ…俺は…?」

――いいえ。あなたはまだ死んでいませんよ。

「でも!現に俺は病気で…!」

自分でそうは言うものの、まだ死んだという気はしなかった。

――たまに、生者もこの空間に迷い込みます。

  死に逆らいながらも惹かれる生者が。

(…!)

少女は馬鹿にしているのか憐れんでいるのか、微笑をわずかに浮かべていた。

「俺は…まだ死にたくないんだ…」

――ええ。分かっています。

  けれど…。

「けれどあの鳥のように、永遠に生き続けるっていうのも地獄のようだな」

俺もいつの間にか笑いを浮かべていた。

――人間はいつか死ぬ。

  そのことは不幸でも幸せでもある。

  …あなたにはまだ少し時間があります。

  戻って、考えてみてください。

「ひとつだけ、質問していいか?」

――はい、なんでしょう?

「その…あの鳥は本当に死ぬことはできないのか?」

少女は少し驚いたような顔をした。

そして今度はさっきのような微笑ではなく、本当に笑った。

「な…何がおかしいんだ?!」

――夢だといったでしょう?

  あの鳥も、私が見せた夢です。

  いわば幻のようなものなんですよ。

「…!じゃあ…」

――形あるものはいつかは壊れる。

  永遠の生なんてありえませんよ。

俺は腰が抜けるのを感じた。

「…よかった」

少女はまだ笑っていた。

俺もつられて笑った。



――死ぬのは、怖いですか?

少女は俺に尋ねた。

「…あぁ。まだ怖いよ。

 でも、それは仕方のないことなんだよな。

 無理に生きていたって、文字通りの生き地獄でしかない。

 それでも…俺は怖いって思いが間違いだとは思わない」

――そうですね。

  それではまた会いましょう。

俺の視界は白くなっていった。

「あぁ。できるだけ後でな…」

そして少女も見えなくなった。



――形あるものはいつかは壊れる。

  生きるものはいつかは死ぬ。

  死んでいるものは――



俺はこうしてこの世に戻ってきた。

あの夢鳥という少女が本当に実在するのか。

それともただの俺の妄想だったのか。

俺にはわからない。

けれど、そう遠くない未来に分かることだ。

…あの鳥は本当に死ぬことができるのだろうか。

もし、実在していたら。

(永遠の孤独…か)

俺は布団の中からあの鳥の羽の色を思った。

そして今は亡き彼女を思った。

それは森の中に咲く花のように凛として、それでいて寂しくて――



あとがきっ。



久々です。
普通の小説も夢鳥も久々ー。
そんな「森に咲く花」です。
夢鳥シリーズが続くにつれて題名考える方が大変だったり。
この物語は不死鳥と男の会話から思いつきました。
裏日記にも書いたのですが、不死鳥は死を知らない。
死ぬことが無いから。
けれど実は男も本当の意味での死は知らないと思います。
それは死んだことがある人間じゃないと分からない。
知らないから怖いし恐れるし。
そんなところを感じていただければナと思います。
ということで。またのお越しをお待ちしております。

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