音に咲く花

音に咲く花



中編




今日はあの子がいなかった。

誰もいない部屋。

ピアノの椅子に腰掛ける。

(いつもと違う…)

そう思いかけ、戸惑う。

(いや…。

あの子がいないこと。

それが日常だったはずだ…)

なのにどこか寂しい…。

それはいつの間にか

あの子がここにいて。

ピアノが歌っていて。

私がそれを聞いて過ごす。

それが日常になっていたことを意味しているのだろう――





「音楽室でピアノを弾くこと。

 それが私の日課でした。

 …今から思うと奇妙な出会いでした」

今でもありありと思い出せる。

そのときの空。

あの子の顔。

「変な音がして、外を見て見たら…。

 あの子が音楽室の下駄箱を蹴っていた音で」

私は顔に自然と笑みが浮かぶのを感じた。

しかし目の前の少女はさっきから無表情だ。

「驚いて、立ちすくんでいたらあの子が言ったんです」

『ピアノ弾かせてくれませんか?』

「それで聞いてみると…。

 どこか怒りをぶつけるような弾き方でした。

 けれど全然私より上手くて…」

正直、驚きと同時に悔しさもあった。

口には出さなかった。

「あの子は次の日もそこに来ました。

 いつしか、私とあの子は昼休みに会うようになっていました」

あの子が作り上げる音楽。

自由で、型などはない。

私はあの子と過ごす時間が好きだった。

あの子の音楽が好きだった。

「…初めてだったんですよ。

 音楽のことをこんなに話せる子」

私は毎日昼休みを待った。

そしてその時間が永遠であるように願った。

この日々がずっと続くように祈っていた。

「けれど…そう思っていたのは私だけだったんです。

 あの子にとって私はただの知り合い。

 私はあの子のことがこんなにも愛しいのに…」

――なぜそう思ったのですか?

少女がしばらくぶりに口を開く。

――直接そう言われたのですか?

「…直接言われた訳ではありません。

 でも紛れもなくあの子の言葉です。

 私は聞いたんです…」

一息をつく。

あの子の声が耳に甦る。

「たまたまあの子が友達と来ていて、私との関係を聞いたんです。

 それで…」

目に涙が盛り上がってくる。

「私はあの子のことが必要なんです。

 でもあの子にとって私はいなくても良いのかもしれない。

 それが許せなくて私は…」

階段であの子に会った。

そのときだった。

あの子に発した最後の言葉だった。

『なんで私に近付いたの?

 私の事、ただの知り合いなんでしょ?

 だったら期待させないでよ!

 期待させて、それで結局裏切るなら…』

涙が目からあふれた。

『最初っから近付かないでよ!』

自分で発した言葉に後悔をした。

後悔し後ずさったそこに階段はなかった…。

「私…あの子に謝らなくちゃ…」

少女が少し驚いた顔をした。



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